税務調査に纏わる疑問点諸々

税務調査を受けるにあたり、色々と疑問に思うことがあると思います。

その内容を取り上げ、それぞれ考察してみました。

パソコンの中身を見せてほしいと言われた場合、どのように対応すべきか

国税庁HPのFAQに下記の記載があります。

 帳簿書類等の物件が電磁的記録である場合には、提示については、その内容をディスプレイの画面上で調査担当者が確認し得る状態にしてお示しいただくこととなります。

一方、提出については、通常は、電磁的記録を調査担当者が確認し得る状態でプリントアウトしたものをお渡しいただくこととなります。また、電磁的記録そのものを提出いただく必要がある場合には、調査担当者が持参した電磁的記録媒体への記録の保存(コピー)をお願いする場合もありますので、ご協力をお願いします。

(注) 提出いただいた電磁的記録については、調査終了後、確実に廃棄(消去)することとしています。

HPアドレス: https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm

今の時代、パソコンで買い物や取引をするのは日常的であり、電子帳簿保存法も始まりますので、調査官がパソコンの中身を見せてほしいという機会も増えると思います。

国税庁のHPの記載通り、中身を見せてほしいと言われた場合は、それに協力する必要があります。

パソコン本体を調査官に触らせる必要はありませんが、画面上で見せて、必要に応じ印刷したものを渡すことが求められます。

ゆえにパソコンの中身は日頃から整理することを勧めます。

今のご時世で、パソコンを直接触りたいという調査官はあまりいないと思いますが、納税者の了承なく勝手に触るのは論外なので、仮にそのようなことがあれば厳重に抗議して問題ありません。

反面調査に納税者の了承は必要か

国税庁HPのFAQに下記の記載があります。

税務当局では、取引先など納税者の方以外の方に対する調査を実施しなければ、納税者の方の申告内容に関する正確な事実の把握が困難と認められる場合には、その取引先等に対し、いわゆる反面調査を実施することがあります。

反面調査の場合には、事前通知に関する法令上の規定はありませんが、運用上、原則として、あらかじめその対象者の方へ連絡を行うこととしています。

また、国税庁による事務運営指針には下記の記載があります。

取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討する。

(注) 反面調査の実施に当たっては、反面調査である旨を取引先等に明示した上で実施することに留意する。

上記の通り、調査過程で「反面調査はやめて下さい」と納税者が訴えても、反面調査を禁止する法令規定はありません。

調査官が間違いなく必要と認めれば、納税者への通知が無くても反面調査は行われます。

反面調査が行われると、取引先等に悪い印象を与えることは避けられないので、日頃から、そもそも怪しい取引やグレーな領収書を経費にしないことを心掛けることが必要です。

ただし、反面調査は「納税者の方の申告内容に関する正確な事実の把握が困難と認められる場合」に行うとされており、「客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限り」行われることが前提となります。

ゆえに事前に反面調査を行うと通告された場合には、なぜ反面調査をやらなければ正確な事実確認が困難なのかを必ず確認し、必要であれば交渉することも選択肢となります。

質問応答記録書へ署名を求められた場合、どのように対応すべきか

税務調査では、質問応答記録書への署名を求められることがあります。

質問応答記録書とは、その名の通り、税務調査の中で、調査官が納税者へ質問した内容が記載されており、その回答を調査官が作成したものです。

それに納税者が署名すると、税務調査の内容を克明に記した証拠として残ることになります。

ただ、質問応答記録書については、国税庁のHP、その他法令に詳細の記載はありません。

手引が国税庁内の内部文書としてあるのみです。

ゆえに、質問応答記録書に署名を求められた場合、拒否しても法的問題は生じませんし、努力義務すらありません。

証拠文書として残る以上、仮に署名する場合は、必ず内容を精査しなければなりません。

その場で安易に署名することだけは避けるべきです。

文面に少しでも疑問がある場合は訂正を求めるようにし、内容に一切の疑義が無いと判断した段階で、署名に応ずるか検討するようにしましょう。

調査官の身分証明書の提示について、どのように規定されているか

国税通則法第74条の13に、身分証明書の携帯について規定されています。

国税通則法第74条の13(身分証明書の携帯等)

国税庁等又は税関の当該職員は、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査、提示若しくは提出の要求、閲覧の要求、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施をする場合又は前条の職務を執行する場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。

税務調査が始まる際に、調査官が身分証明書を納税者へ提示しなければなりません。

さすがに今まで会ったことはありませんが、仮に調査官が身分証明書を忘れた場合、税務調査を受ける必要がありません。

(そもそも相手が誰か分からないのであれば、調査に応じてはいけません。)

調査官は、調査中携帯しなければならないと規定がありますが、通常は調査開始時に提示されるので、その際に下記をメモするようにしましょう。(写真を撮ることは許されていません。)

・税務署名及び部門名

・肩書(調査官、上席、統括官など)

・氏名

・質問検査章の欄(特に対象税目)

事前に調査税目の事前通知がありますが、法人税及び源泉所得税の税務調査であれば、所得税や相続税に関する資料を見せる必要はありません。(例えば個人名義の通帳など)

ちなみに納税者が税理士へ税務権限を依頼している場合は、税務調査の際、税理士にも税理士証票の提示義務があります。

税務調査の際に税理士が同席する際は、その税理士も税理士証票を携帯していなければなりません。

税理士法第32条(税理士証票の提示)

税理士又は税理士法人が税務代理をする場合において、当該税務代理に係る税理士が税務官公署の職員と面接するときは、当該税理士は、税理士証票を提示しなければならない。

調査官が従業員へ質問することは可能か

国税庁の事務運営指針に下記の記載があります。

調査について必要がある場合において、質問検査等の相手方となる者の代理人、使用人その他の従業者に対し質問検査等を行う場合には、原則として、あらかじめ当該質問検査等の相手方となる者の理解と協力を得る。

HPアドレス:https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm

事務運営指針では、調査官が従業員へ質問するときは、原則として、質問検査権等の相手方となる者の理解と協力が必要と記載されています。

質問検査権等の相手方とは納税者のことであり、納税者の理解及び協力がある場合にのみ、調査官は従業員へ質問することができます。

ゆえに調査官が何の断りもなしに、従業員へ質問することは許されません。

質問検査権の対象者はあくまで納税者たる個人事業主もしくは法人であり、その納税者の従業員への質問は、副次的なものであるべきです。

すなわち、納税者に質問しても調査官が納得できる回答が十分に得られなかった場合のみ、従業員への質問検査権が行使される可能性が発生すると解釈されます。

税務調査の際に調査官が従業員へ質問することは、実際にあり得ることではありますが、主に下記のような場合に限られ、ケースとしてはあまり多くはないと思われます。

・その従業員の勤務実態などに疑義がある場合

・調査対象者(個人事業主又は法人など)が従業員へ貸付を行っている場合

税務調査では架空人件費などは徹底的に調べられるので、そのような行為が疑われるのであれば、調査官が従業員へ直接質問したくなるのも無理はありません。

納税者が従業員へ多額の貸付を行うことも通常では考えられない行為であり、契約書や返済状況など調べられるのは当然のことと言えます。

当然のことですが、日頃からクリーンな経営を行えば問題となることはないということであり、従業員への質問検査権の行使に敏感になることもないということになります。

まとめ

税務調査も時代の流れとともに、その在り方が変わってきており、税務調査の経験が豊富な税理士であっても、その時代についていく必要があります。

平成26年に国税通則法が改正され、法令解釈通達や質疑応答集、事務運営指針が細かく策定されたのも、その流れの一環と思います。

調査を受ける納税者も、税務代理人たる税理士であっても、調査前には必ず上記は細かく読み込み、調査官がそれに反する行為を行った場合は、指摘する必要があります。

逆に、納税者や税理士が、調査官に対し敵愾心丸出しで対応する行為や、挑発的な言動を繰り返すような昭和的なやり方も、慎まなければなりません。

調査が円滑に進むことが第一ですので、その前提となる事項は確実に押さえておきたいものです。

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