診療所を経営している以上、税務調査はいずれやってきます。
税務調査で指摘を受け修正する場合、延滞税、過少申告加算税など附帯税が課せられますが、悪質な場合は重加算税が課税されます。
悪質な場合に限られるので、明瞭会計を心掛けていれば課税されることはありません。
同業と会うとき、重加算税を追徴されたという話はちらほら耳にします。
重加算税はどういった場合に課税されるか、どのようにして防ぐかなどをまとめました。
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重加算税の法令根拠及び該当例
重加算税については国税通則法第68条に規定されています。
すなわち、納税者が事実を「隠蔽」又は「仮装」した場合に、重加算税の対象となるのです。
逆に解釈すると「隠蔽」又は「仮装」の事実が無い場合には、重加算税の対象とはなりません。
法人税の重加算税の取扱いについては、国税庁の事務運営指針に細かく記載されています。
参考:https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htm
隠蔽又は仮装に該当するケースは主に下記となります。
・二重帳簿作成
・帳簿書類の破棄又は隠匿
・帳簿書類の改竄
・売上や棚卸資産の除外
・架空の仕入又は経費の計上
逆に、隠蔽又は仮装に該当しないケースも記載されており、主に下記が挙げられています。
・期ズレによる売上計上漏れや経費過大計上
・棚卸資産の過少評価
・費用勘定科目の誤り
仮に重加算税の対象となると指摘された場合には、その指摘が隠蔽又は仮装に該当しているかをまず確認する必要があります。
隠蔽仮装行為の具体例
診療所運営で想定される税務調査の指摘で、重加算税対象となり得る行為について、思いついたまま挙げると下記となります。
①収入
・窓口収入を抜いていないか
・雑収入を懐に入れていないか(特に歯科の金属売却など)
②売上原価
・棚卸資産を故意に過大計上していないか
③人件費
・架空の人件費を計上していないか
・勤務実態が無い親族への給与を計上していないか
④経費
・私的目的の支出を多額に計上していないか
・まるで実態も無いMS法人へ、委託費等の名目で費用計上していないか
・大した実績もないMS法人へ、多額の支出をしていないか
⑤その他
・税務調査官へ嘘の回答をしていないか
・領収書を偽造していないか
仮に隠蔽仮装行為を行うとどうなるか
売上を隠蔽した場合
売上を隠蔽しようとしても、税務調査では当然明るみに出て、重加算税が課税されることになります。
仮に法人で計上すべき売上100を、収入計上せず役員個人の懐に入れた場合を想定します。
その場合、通常、役員賞与100/売上100 という仕訳となります。
売上100は当然修正して計上し、その上で重加算税と延滞税が課税されます。
さらに役員賞与認定されれば、全額否認の上、源泉所得税の課税対象となります。
本来であれば、100から税金約30を引いて70が法人の手元に残りますが、個人の懐に入れたばかりに、ほぼ100がまるまる税金で取られるような形となります。
収入を隠そうと思っても、税務署に調べられればすぐにバレますので、悪質な行為は慎みましょう。
逆に損をするだけです。
他法人へ無用に資金を流した場合
MS法人を設立すれば、節税ができると勘違いしているドクターが非常に多いように思います。
確かにMS法人設立により、活用方法によっては、個人診療所であれば節税になり得ますし、医療法人でも正しく運用すれば相続対策等になり得ます。
(ここで配当類似行為、医療法抵触云々の話をすると、とんでもなく長文となるので、ここではしません。今回はあくまで税務上の話に絞ります。)
そもそもMS法人という単語は、メディカルサービス(Medical Service)法人の略で、医療法等に正式名称が定められているわけではありません。
通常は医療法人の補佐的役割を担い、医療法人では行うことのできない業務を行うのが一般的にMS法人とされています。
MS法人は通常は株式会社であり、医療法人と異なり営利目的での活動が可能となります。
活用使途として、建物をMS法人が保有し、医療法人に賃貸するようなケースが多いです。
役員社宅など医療法に抵触するような行為も、MS法人では可能となります。
このように不動産賃貸といった実態があれば問題ありません。
問題なのは、特に実態もないのにMS法人へ資金を移動する行為です。
何ら実体のない法人であれば、MS法人という名の単なるペーパーカンパニーです。
実体のない法人への経費計上は、節税でなく脱税となります。
MS法人に関しては、下記の類の質問が多いので、回答とともに記載しておきます。
Q:納税予想すると医療法人で多額の利益が出る予定。
だから医療法人の決算期末に、MS法人へ業務委託名目等で資金支出したい。
但し、MS法人は代表取締役に親族が就任しているだけで、実際は何もしていない。
A:MS法人にそもそもの実態が無ければ、経費計上は一切認められない。
Q:個人診療所を経営しているが、配偶者が他会社にフルタイム勤務のため、専従者給与支給ができない。
配偶者は週末に診療所の清掃をしてくれているので、配偶者が代表を務めるMS法人へ業務委託料数十万円を毎月支払いたい。
A:仮に清掃業務を行っていたとしても、実態に見合った金額しか計上できない。
その数十万という金額が実態に見合っているかを検証する必要がある。
社会通念上、週末に一般人が清掃を行うだけで月数十万円貰える仕事があるかを考えるべき。
そもそも何ら基準を満たさないMS法人が診療所の清掃を行う行為は、医療法抵触の可能性あり。
普通に考えれば当然のことですが、なぜかMS法人への資金支出が経費計上できると安直な曲解をしている方が非常に多いように思います。
MS法人への支出といえども、実態が無ければ架空経費であり、ありもしない領収書を経費計上しているのと同様となります。
悪質の誹りを受けても仕方ないと思います。
税理士に求められる役割
顧問税理士を付けている方にとって、税理士の役割への捉え方はそれぞれと思います。
問題なのは、ブラックな支出若しくは限りなくグレーの支出を、税務署に認めさせるのが税理士の役割と勘違いしている方がいることです。
主に2つのパターンがあります。
①悪意を持って、ブラックな支出を費用計上する方
②ブラックな支出を計上することについて、悪と思っていない方
どちらも悪に相違ありませんが、税理士にとって厄介なのは、②の方です。
自らの行為が悪質だと感じていないので、税理士としては説明し指導する必要があります。
説明して納得しないのであれば、まともな税理士であれば付き合うことはしないはずです。
ブラックな支出を認めさせるのが税理士の役割なのではなく、ブラックな支出を計上しないように指導するのが税理士の役割です。
税務調査が無ければ税理士という仕事は成り立たないという前提のもと、調査を見据えて日々助言させて頂くのが税理士の仕事となります。
私は上記①や②のような思考の方は関係を断ったので、現在の顧問先にそういう方はいませんが、独立した税理士であれば、皆同じような思考ではないでしょうか。
税理士報酬はいわば信頼手数料であり、信頼関係が瓦解した時点で顧問関係は破綻すると考えています。
まとめ
重加算税について及び税理士としての立場について述べました。
参考にして頂ければ幸いです。
第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(略)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(略)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。