医療法人化は節税の観点だけで行うべきではありません。
設立検討前に考えるべきことをまとめました。
メリットとデメリットを最大限に考える
知人に、医療法人化を視野に入れていたものの、診療所の運営方針や医療法人の実態等を総合的に検討した結果、医療法人化を取りやめ、個人診療所として継続していく選択をしたドクターがいます。
医療法人化を目標と捉えず、医療法人というものをしっかり理解した上での結論であれば、それは一つの選択として、とても賢明な判断と思います。
私も以前は、個人診療所のドクターに対して、売上が一定規模になってきた段階で、医療法人化の提案をよく行っていました。
今では、仮にドクターから依頼され提案することがあっても、勧めるようなことは絶対にしません。
医療法人化は、診療所の運営形態によって当然メリットとなることは多くあります。
但し、同時にデメリットとなることも多く、以前の時代と異なり、そのデメリットがより顕著と感じているためです。
税理士や行政書士へ医療法人化について相談する際に、メリットの話ばかりされる場合は要注意です。
士業や生命保険会社、コンサルによる医療法人化セミナーなどは、基本的に顧問先獲得が狙いなので、話に偏りが生ずるのも無理はありません。
ただ、巧言に気を取られず、内容を疑うことも考えましょう。
医療法人と株式会社との違いを理解する
一定規模の診療所であれば、医療法人化すれば、個人診療所に比較すれば、基本的に節税となります。
ただ、節税のためという動機だけで医療法人化すべきではありません。
事前に税理士や行政書士等が説明すべき事項ですが、医療法人化は節税と相反することがとても多いです。
株式会社と医療法人の違いを、まず鮮明に理解する必要があります。
医療法人の収入原資は診療報酬であるがゆえに、医療法人は一種の半公的機関であるため、剰余金の使途について、かなりの制限があります。
近年、医業経営の透明性確保やガバナンス強化、データベース構築を名目として、事業報告書以外の提出書類が増えています。
・平成29年4月2日以後開始会計年度:関係事業者との取引の状況に関する報告書
・令和5年8月以降決算法人:経営情報等報告書の提出
・その他:一部自治体による提出書類の増加
今後、上記のような提出書類がどのように変遷していくか、予想ができません。
税法と医療法の兼ね合いを考えると、医療法人化による節税メリットは、親族を役員にして所得分散を図り、所得控除の恩恵を受けること位しか考えられません。
医療法人による生命保険加入は、個人診療所よりは多少の利点があると思いますが、生命保険加入はそもそも節税にはなりません。
認可を受けて設立されることを認識する
今の時代は大きな問題にならなくても、将来的に医療行政による情勢が変われば、設立時に享受しようとしていた医療法人化のメリットが霧散している可能性もあります。
本来自分が思い描いていた医療法人化像が形骸化してしまっては本末転倒です。
認可による設立の為、個人診療所に比べ、行政の関与度合いも深くなります。
同様に、税務署以外にも作成提出すべき書類も多く、毎期登記も必要となり、士業等への報酬もそれだけ増加します。
医療法人特有の制度により、理事や社員を誰にするか等にも気を配る必要があり、一診療所における人材選択は意外と難しいものです。(特に社員)
医療法人には永続性が求められており、医療法人化すると基本的に個人診療所には戻れません。
医療法人化した後に後悔しても遅いのです。
士業等が節税だけをアピールし、設立手続き前に将来的なリスク等もろくに説明せずに、設立へ向かう診療所が多いように思います。
現状で、本来の設立意義を理解している理事長は少数派であり、そもそも都道府県等から認可を貰って運営が可能となっている意識が薄い傾向にあります。
都道府県等から認可を貰って、初めて運営が可能なことを認識していくことも必要と思います。
まとめ
現在、個人診療所を経営している院長は、設立に動き出す前に、節税だけを考えるのではなく、真の意味で本来の設立意義に立ち返るべき時代になるのかなと思います。
綺麗事を述べるつもりはありませんが、良くも悪くもそうならざるを得ない時期がやってくる気がします。
本来の医療法人化の意義を前提に医療法人化によるメリットを考えると、分院開設、附帯業務による拡充、後継者への円滑な事業承継などが挙げられます。
どれも医療法人でしかできないことです。
そのような将来像を描いている方は、むしろ医療法人化への検討を積極的に考えるべきと思います。
そもそも分院を多く出すクリニックは、定款変更時に都道府県等のチェックをその都度受けており、そのようなクリニックは、基本的に株式会社の法人化のような節税の恩恵をあまり受けていません、
医療法人設立の際は、多角的な方面から検討することを勧めます。
医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。