相続税試算依頼の際に税理士に求めるべきこと

今年受け持たせて頂いた確定申告一覧を見ると、相続業務を通じて顧問先になって頂いた案件の比率が大きくなっています。

その業務の一つが相続税試算です。

税理士により異なると思いますが、相続税試算を依頼された際、私は下記を主点にして考察するようにしています。

 ・金融資産により納税可能か

 ・小規模宅地等の特例の適用可否

 ・推定相続人が希望する分割による試算

 ・二次相続

相続税試算を税理士に依頼する場合、何を求めるべきかまとめました。

(相続人間で揉めている場合は除きます。)

財産一覧の評価額の作成を求める

推定相続人が相続に関し不安に感じている点は、その多くは相続税の納税と思います。

相続人間で争いが生じている場合を除き、現状で相続税が納められるか否かを気にされている方が大半です。

相続税試算を行う場合、その分割方法等により相続税額が異なることが多いので、まず現状で把握できる財産の一覧をまとめて下さい。

大まかで構わないので、対象の方が保有している財産を把握することが必要です。

私が相続税試算を請け負う際は、主に下記を提示依頼及びヒアリングするようにしています。

預金:だいたいの残高

土地及び建物:固定資産税明細

上場株:金融機関から送られてくる明細

自社株:直近の法人税申告書及び決算書

生命保険:把握している分のヒアリング

その他:個人確定申告など

まず自身が把握している財産の一覧を提示し、おおまかな評価額がどれくらいかを税理士に試算して貰うことが必要です。

その上で相続税の納税試算額をシミュレーションする流れとなります。

相続対策は試算が全てではないですが、概算でも構わないので試算しないと対策の取りようがないので、まずは自身の財産の把握及び概算の相続税算出を念頭に置くようにして下さい。

納税額が現金納付可能の範囲内か否かを聞く

相続税納税は基本的に現金で行う必要があります。

その場合、被相続人が保有していた現預金と、相続人が保有している現預金で負担する形となります。

被相続人が多額の現預金や金融資産を持っている場合や、生命保険金が多額の場合は、その範囲で賄うことができるので、あまり問題になることはありませんが、不動産や自社株を多額に保有している場合は、事前の対策が必要となります。

全体の遺産総額を10と仮定し、遺産の割合が下記の場合を想定します。

・不動産 4

・自社株 3

・上場株 2

・預金  1

このようなケースの場合、現預金だけで相続税を納税できないことがあります。

ゆえにまず事前に試算して、納税額がだいたいどれくらいになりそうか把握しなければなりません。

預金だけでは払えそうにない場合は、不動産を売却する、上場株を換金するなど必要があります。

相続税の申告期限は、基本的に相続開始日から10か月以内であり、不動産の売却などはすぐに対処できないケースが多いので、相続開始前から準備しなければ間に合いません。

上場株は、手続きさえスムーズに行えれば比較的簡単に換金可能ですが、時価が乱高下しやすい株式などは売却時期の判断が必要です。

自社株は評価額が高くなることが多い上に、売却が困難なため、相続財産の中では厄介な存在です。

事前に株式を贈与する、純資産価額を減らすなど可能な限りの対策を練らなければなりません。

(全体に占める自社株の割合があまりに大きいと悲惨な結果になりかねないので、早めの自社株対策は必須)

試算段階で小規模宅地等の特例の適用可否を聞く

私見として、税理士が相続税の計算に当たり、一番気を遣うべきは小規模宅地等の特例と思っています。

特定居住用宅地等で、330㎡まで土地の評価を80%減額できることになるので、相続税を減額するにはこれ以上ない特例ですが、土地が首都圏にあり路線価が高額な場合、特例の適用可否で、納税額が億近く変わることがあります。

要するに、特例の要件確認に細心の注意を払う必要があります。

小規模宅地等の特例は申告要件であり、一定の場合を除き、申告期限内に適用可否を判断し、申告書にその旨を反映させなければなりません。

申告の際に適用を受けずに申告及び納税した場合、期限後に改めて適用を受ける形を取ろうと思っても、納税の返還を求めることができません。

ゆえに適用判断を間違えると、相続人の将来を左右するほど果てしない損害となります。

税理士に試算を求める際は、小規模宅地等の特例が適用できそうかを必ず確認するようにしましょう。

主に下記のようなケースは要注意です。

・老人ホーム入居を検討している場合、もしくは既に入居している場合

・家なき子特例を考えている場合

・親族で同族会社経営をしている場合

・親子間で不動産の貸借をしている場合

現状で適用が可能なケースでも、推定相続人のその後の動向で、特例適用が受けられなくなる場合があります。

通常、税理士が相続税試算を依頼された場合、小規模宅地等の特例の適用がある場合とない場合で、それぞれで試算して貰えると思います。

その動向次第で税額が億近く変わることを考えれば、税理士に細かく聞くことは必然となると思います。

現状での遺産分割の希望を伝える

下記のような場合、遺産分割の方法により、相続税総額が変動します。

・配偶者がいる場合

・小規模宅地等の特例の適用可否(誰が引き継ぐかによって変わる)

・同族会社からの死亡退職金支給(金額の多寡により変わる)

ゆえに、まず現状で相続人の方々が望む遺産分割方法を伝える必要があります。

望む遺産分割方法で納税可能であれば問題ありませんが、納税が困難な場合は、事前の対策が必要です。

分割方法の変更をすれば納税できるのか、また今後どのような対策を行えばベストな分割となるのかをシミュレーションしなければなりません。

自分たちが望む分割方法を第一に考え、その上で妥協できる範囲での分割を検討する道を探る形となります。

他の相続人の遺留分を考慮すると納税できない場合などは、事前に話し合う(場合によっては遺言を作成する)などの対策を取る必要があります。

まとめ

ご紹介で相続税試算を依頼された場合、紹介とはいえ互いに初対面のため、税理士も相手が何を望んでいるかを推察するには限度があります。

長年税理士と顧問契約を締結している場合は問題ないと思いますが、顧問税理士がいない場合には、相続税試算の段階で、できるだけ密な関係を築けそうな税理士を探す方が良いです。

一定の不動産を保有する資産家の相続税試算をするたびに、税金の怖さや残酷さを実感して震撼することがあります。

できるだけ税理士とコミュニケーションを取って、互いに寄り添えるような関係性を持つことも大切かと思います。

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