医療法人が解散する場合の退職金支給時期に係る考察

医療法人が解散する場合、退職金を支給するケースが大半です。

ただ、その損金算入や支給の正しい時期について、書籍やネット、その他士業の意見を見聞きすると、不明瞭のように思います。

どの時期に損金算入及び支給すべきか、個人的に考察しました。

認可申請の場合の解散事業年度をまず把握する

医療法人が解散する場合、基本的に届出か認可申請に分かれます。

解散を検討する場合、まず定款を確認する必要があります。

定款等に「診療所の全てを廃止したとき」の文言が解散事由として記載されている場合、届出による解散手続を行う形となります。

また、社員欠乏による場合も届出となりますが、その場合の届出は都道府県の裁量に委ねられているのが現状です。

(あくまで認可申請でないと認めないと押し通す自治体もあれば、逆に届出による解散を促すような自治体もあるようで、様々です。)

届出による解散でなければ、基本的に社員総会の決議を経て解散認可申請をしていく形となります。

都道府県の医療審議会は通常年2回ほど行われますが、その審議会を通して認可を貰わないと解散できません。

株式会社の解散と大きく異なるのが、この点です。

医療法人は医療審議会の日程や認可日に左右される形となり、その認可日が解散日となるので、解散日を自由に決めることはできません。

医療審議会の日程は自治体により異なるので、必ず事前に確認する必要があります。

生命保険の解約との兼ね合わせを考える

医療法人の場合、その多くが役員退職に備えて生命保険に加入していると思います。

長きに渡って経営していた医療法人の場合、積立額も多額になっていて、同時に解約した場合の雑収入計上額も多額に計上されます。

ゆえに、そのまま決算を迎えると納税負担も大きいものとなります。

できれば、生命保険解約に伴う雑収入計上と同じ事業年度に退職金の損金算入計上を行い、損益を相殺することが理想です。

生命保険契約の解約については、事前に生命保険会社の担当者と連携することが大切です。

特に下記については早めに確認する必要があります。

・解約に際し必要な書類等

・解約手続を行った場合、実際に口座に振り込まれるまでの期間

・解散後に解約手続を行うことが可能か(解散後の名義は、理事長○○でなく、清算人○○)

清算事業年度に退職金に係る決議を行い、かつ、支給すれば清算事業年度の損金となると思います。

その場合、生命保険の解約を清算事業年度に行うことが出来るのかを、生命保険の担当者へ事前に確認することが必須です。

仮に清算事業年度でなく、解散事業年度で生命保険解約を行うのであれば、退職金の支給時期も考察していく必要があります。

法人税法と医療法の双方を確認し、退職金支給の時期を考察する

役員の退職金の損金算入時期については、国税庁のHPに記載されています。

役員の退職金の損金算入時期

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます。

その退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。

ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。

(注1) 退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での損金の額に算入することはできません。

参考:No.5208 役員の退職金の損金算入時期|国税庁

要は、下記の日の属する事業年度に損金算入することになります。

原則:株主総会の決議等によって具体的に金額が確定した日(前事業年度等に取締役会で内定した日ではない。但し、株主総会で金額が確定さえしていれば、支給時期についての条文明記はない。)

例外:実際に支払った日

医療法人にも上記の規定は適用されますが、医療法人の場合、医療法の適用も考える必要があります。

医療法第55条第6項

第一項第二号(目的たる業務の成功の不能)又は第三号(社員総会の決議)に掲げる事由による解散は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない。

医療法人の解散について社員総会の決議があったとしても、都道府県知事の認可が無ければ、その決議の効力は発生しません。

医療法人の理事や監事については、解散があって初めて退職となり、解散後の役員は清算人のみとなります。

ゆえに、解散事業年度に退職金支給の決議を行ったとしても、認可を受けることができなければ、その決議に効力は発生しないとも考えられます。

以下、私見となりますが、逆に認可を受けた場合は解散前の退職金決議も有効となり、その決議で退職金を具体的に確定しているのであれば、その金額は解散事業年度の損金の額に算入されると考えられます。

ただ、解散があって初めて理事や監事が退職となることを考えると、認可を要する解散前に退職金を支給することは、個人的に違和感を覚えます。

一方で、清算人は法人税法上の役員であり、仮に解散前に理事長であった方が、解散後に清算人に就任した場合は、引き続き役員の地位を継続することになります。

役員としての職務や地位が激変し、実質的に退職したと同様の事情であると考えれば、理事から清算人への地位変更は、分掌変更ということになると思います。

その場合、理事職を退職した時点で退職金を支給することが可能です。

ただし、分掌変更による退職金は未払計上が認められていません。

そうすると、社員総会決議日が解散事業年度内であり、理事が清算人となる場合は、その理事への退職金を損金とするのは解散事業年度ということになるかと思います。

上記の私見とは別として総合的に調べてみると、一般的には解散事業年度に退職金に係る決議をし、かつ、支給及び損金計上しているケースが多いように思います。

ちなみに上記のケースにおいて、理事だった方が清算人となる場合で、かつ、清算人報酬を支払う場合には、基本的に理事報酬の最終給与の概ね50%以下にする必要があります。

参考HP:No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金|国税庁

まとめ

医療法人が解散する場合の損金算入時期について、一部私見を交えて述べました。

退職金は金額が多額なので、その後のリスクも鑑みて、事前に法令を正確に確認する必要があります。

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