遺言書作成は安易に勧められないケースもある

相続前にやっておくべきことは何か、という相談がありました。

真っ先に思いつくのは遺言だと思います。

士業の立場からすれば、作るべきとアドバイスする方が多いはずです。

但し、相談者の現状と、コストや手間を照らし合わせると、安易に勧められないケースもあります。

遺言を作成する主なデメリットを詳細にまとめました。

自筆証書遺言(保管制度利用無し)のデメリット

その名の通り、遺言者が手書きで作成する遺言です。

デメリットは下記です。

・財産目録を除き、手書きで作成しなければならない

  …一言一句間違えることなく書く必要があるので、かなりの手間。

   内容に不備があると無効になる。

・家庭裁判所の検認が必要

  …相続人が遺言持参で家庭裁判所へ行く必要がある。

   検認前に勝手に開封すると5万円以下の過料。

・紛失の可能性がある

  …そもそも遺言書の有無を、相続人が認識しないこともあり得る。

上記のうち、相続人が家庭裁判所へ行って検認を受けることは、以下のようにそれなりの手間を要します。

1、申立書作成(遺言者や相続人の戸籍謄本等を添付)

2、検認の申立て

3、検認期日の日程調整(平日のみ)

4、検認期日の通知を受ける

5、相続人が遺言書や身分証明書、印鑑等を持参して家庭裁判所へ行く

6、検認済証明書の受取 

検認期日の日程調整も1か月以上先になることが多いので、早めに手続きを行う必要があります。

自筆証書遺言(保管制度利用無し)は、内容によっては無効の可能性もあります。

それに加え上記のような手間を、相続人が受け入れることができるかという点は、一つの検討材料となります。

なお、自筆証書遺言のサポートを士業が行うケースもありますが、あくまでサポートです。

自筆証書遺言は、あくまで遺言者が手書きしなければならないので、仮に士業に報酬を払っても、財産目録以外の本文は自ら手書きをする必要があります。

ただ、内容に不備があると無効になるため、ある程度士業に力を借りないと、作成するのが難しい面もあります。

自筆証書遺言(保管制度利用有り)のデメリット

法務局で保管して貰う制度を利用する遺言書です。

デメリットは下記です。

・遺言者本人が法務局へ赴く必要がある

  …遺言者が入院中で法務局へ行けない場合は、この制度の利用は不可。

   内容を変更した場合や住所変更の場合も、その都度法務局へ足を運ぶ必要がある。

・決められた様式で作成する必要がある

  …遺言書の様式などがかなり厳格。(参考HP:自筆証書遺言書保管制度

   法務局では、様式の確認作業を行ってくれるが、内容に関する審査は行わない。

遺言書保管制度も、下記の手順を踏む必要があり、やはり一定の手間がかかります。

1、遺言書作成(財産目録以外は手書き)

2、ホームページ掲載の申請書を印刷して作成

3、法務局へ保管申請の予約

4、遺言者本人が法務局へ伺い保管申請(住民票等を添付)

5、保管証受取

公正証書遺言のデメリット

遺言者が公証人と証人2名の前で遺言を伝え、公証人が文章でまとめる制度です。

デメリットは下記です。

・証人が2名必要

  …推定相続人やその配偶者などは不可のため、士業に依頼するケースが多い。

   その場合は当然、士業へ支払う報酬がかかる。

コストがかかる

  …財産価額に応じた公証人への手数料負担がかかる。

   その後、訂正したい場合も、その都度手数料負担が必要。

   仮に遺言執行人を指定した場合、執行者への報酬も必要。(執行人指定は任意)

頼めば公証人が出張してくれるので、士業に丸投げすれば、大きな手間もなく作成可能であり、多くの士業が勧める遺言書作成方法です。

その分、公証人手数料や士業への報酬を含め、コストは数十万単位で多額にかかります。

さらに、遺言執行者を士業に依頼している場合は資産総額の1%前後の報酬(普通に考えれば相当な負担)、遺言内容を変更したい場合もその都度費用負担が生じます。

一定程度の資力がなければ、とても勧められません。

まとめ

上記のように、遺言書には多くのメリットがある一方、デメリットも多くあります。

遺言を作成しようとする場合、現在の財産状況や家族構成を前提に、遺言書作成にかかる手間とコストを天秤にかけ、検討することを強く勧めます。

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