退職金の原資として、中小企業退職金共済(以下、中退共)を活用するケースがあります。
一診療所において、これが有効か否かを確認します。
退職金の原資をどのように準備するか
長きにわたって勤務する従業員にとって、いずれ来る退職に際し、退職金について気にされる方が多いと思います。
退職金については、まず就業規則に退職金規程があるか否かで、支給の有無が判断されますが、一診療所の就業規則に退職金規程があることは稀かと思われます。
(仮に退職金規程がある場合は、早い段階から相応の対策を立てる必要があります。)
将来的に退職金が支払われるかどうかで、従業員のモチベーションも変わります。
それ以前に不安に駆られる方もいると思います。
診療所を長く支えてくれた従業員へは、できるだけ退職金を支給したい院長の気持ちもあるはずです。
将来的な従業員退職に備え、仮に退職金を支給したい場合、その原資の為の対策は主に下記が挙げられます。
中退共を活用する
独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営する中小企業の為の退職金積立制度を活用。中退共は、従業員数が100人以下又は出資金5,000万以下で加入可能。
生命保険に加入する
保険会社へ保険料を支払う形で毎期積立を行い、従業員退職のタイミングで解約して、その解約返戻金で退職金を支給。
診療所で積立を行う
診療所において定期預金などで毎期積立を行っていき、従業員退職のタイミングで定期預金などを解約して退職金支給。
このうち、生命保険については従業員退職の際に解約する必要があり、基本的に元本割れするので、退職金対策で生命保険を活用するのは勧めません。
それであれば、診療所独自の内部留保で積立を行う方が良いと思います。
(ちなみに養老保険は、私は全く勧めません。)
以下、中退共について述べます。
中退共加入のメリット
中退共加入の主なメリットは下記です。
診療所にとって中退共は、外部組織への積立となります。毎月中退共へ掛金を支払い積立を行い、従業員退職の際に、退職金として中退共から還元される形となります。
退職金は、中退共から従業員へ直接支払われるので、予めの備えという点では有効と思います。
2年以上の勤務により掛金以上の退職金となるため、運用を考える上でも悪くはありません。
中退共加入のデメリット
中退共加入の主なデメリットは下記です。
・原則全従業員の加入が必要
・個人事業主及びその配偶者等、医療法人の役員は加入不可
・1年未満で退職した場合、退職金支給は無し
・解約する場合、従業員の同意等が必要
中退共の何より大きなデメリットは、従業員の原則全員加入が求められることです。
加入後、新たに入社する従業員も全て加入させなければならないので、従業員が増えるほど掛金負担も増えます。
また、退職理由を問わず支給されるため、退職理由が自己都合か事業主都合を問わず退職金が支給されます。
診療所に迷惑を掛けたり、院長とトラブルを起こした従業員にすら支払われるのは、経営者として納得し難い部分もあると思います。
また、2年以上勤務すれば元は取れますが、1年未満の退職では退職金は一切支給されません。すなわち掛金は掛け捨てということになります。(経費にはできますが)
まとめ
従業員の退職金の積立方法を、主に中退共に焦点を当てて述べました。
仮に中退共加入を検討する場合は、上記のメリットとデメリットを天秤にかけ、慎重に判断していく必要があります。
・毎月支払う掛金が経費計上可能
・掛金の金額は従業員ごとに任意で選択可能(月5,000円~30,000円)
・2年以上勤務で、掛金の100%以上の退職金受取
・退職金は、中退共から従業員へ直接支給