相続前にやっておくべきことは何か、という相談がありました。
真っ先に思いつくのは遺言だと思います。
士業の立場からすれば、作るべきとアドバイスする方が多いはずです。
但し、相談者の現状と、コストや手間を照らし合わせると、安易に勧められないケースもあります。
遺言を作成する主なデメリットを詳細にまとめました。
自筆証書遺言(保管制度利用無し)のデメリット
その名の通り、遺言者が手書きで作成する遺言です。
デメリットは下記です。
上記のうち、相続人が家庭裁判所へ行って検認を受けることは、以下のようにそれなりの手間を要します。
1、申立書作成(遺言者や相続人の戸籍謄本等を添付)
2、検認の申立て
3、検認期日の日程調整(平日のみ)
4、検認期日の通知を受ける
5、相続人が遺言書や身分証明書、印鑑等を持参して家庭裁判所へ行く
6、検認済証明書の受取
検認期日の日程調整も1か月以上先になることが多いので、早めに手続きを行う必要があります。
自筆証書遺言(保管制度利用無し)は、内容によっては無効の可能性もあります。
それに加え上記のような手間を、相続人が受け入れることができるかという点は、一つの検討材料となります。
なお、自筆証書遺言のサポートを士業が行うケースもありますが、あくまでサポートです。
自筆証書遺言は、あくまで遺言者が手書きしなければならないので、仮に士業に報酬を払っても、財産目録以外の本文は自ら手書きをする必要があります。
ただ、内容に不備があると無効になるため、ある程度士業に力を借りないと、作成するのが難しい面もあります。
自筆証書遺言(保管制度利用有り)のデメリット
法務局で保管して貰う制度を利用する遺言書です。
デメリットは下記です。
・遺言者本人が法務局へ赴く必要がある
…遺言者が入院中で法務局へ行けない場合は、この制度の利用は不可。
内容を変更した場合や住所変更の場合も、その都度法務局へ足を運ぶ必要がある。
・決められた様式で作成する必要がある
…遺言書の様式などがかなり厳格。(参考HP:自筆証書遺言書保管制度)
法務局では、様式の確認作業を行ってくれるが、内容に関する審査は行わない。
遺言書保管制度も、下記の手順を踏む必要があり、やはり一定の手間がかかります。
1、遺言書作成(財産目録以外は手書き)
2、ホームページ掲載の申請書を印刷して作成
3、法務局へ保管申請の予約
4、遺言者本人が法務局へ伺い保管申請(住民票等を添付)
5、保管証受取
公正証書遺言のデメリット
遺言者が公証人と証人2名の前で遺言を伝え、公証人が文章でまとめる制度です。
デメリットは下記です。
・証人が2名必要
…推定相続人やその配偶者などは不可のため、士業に依頼するケースが多い。
その場合は当然、士業へ支払う報酬がかかる。
・コストがかかる
…財産価額に応じた公証人への手数料負担がかかる。
その後、訂正したい場合も、その都度手数料負担が必要。
仮に遺言執行人を指定した場合、執行者への報酬も必要。(執行人指定は任意)
頼めば公証人が出張してくれるので、士業に丸投げすれば、大きな手間もなく作成可能であり、多くの士業が勧める遺言書作成方法です。
その分、公証人手数料や士業への報酬を含め、コストは数十万単位で多額にかかります。
さらに、遺言執行者を士業に依頼している場合は資産総額の1%前後の報酬(普通に考えれば相当な負担)、遺言内容を変更したい場合もその都度費用負担が生じます。
一定程度の資力がなければ、とても勧められません。
まとめ
上記のように、遺言書には多くのメリットがある一方、デメリットも多くあります。
遺言を作成しようとする場合、現在の財産状況や家族構成を前提に、遺言書作成にかかる手間とコストを天秤にかけ、検討することを強く勧めます。
・財産目録を除き、手書きで作成しなければならない
…一言一句間違えることなく書く必要があるので、かなりの手間。
内容に不備があると無効になる。
・家庭裁判所の検認が必要
…相続人が遺言持参で家庭裁判所へ行く必要がある。
検認前に勝手に開封すると5万円以下の過料。
・紛失の可能性がある
…そもそも遺言書の有無を、相続人が認識しないこともあり得る。