医療機関を顧問に持つ税理士が、行政書士資格をどのように捉えるか

先日、顧問先へ訪問した際に、お客様から「税理士以外に司法書士資格も取得したんですね」と言われました。

司法書士資格など取っていませんし、取る予定もありません。

(難関資格ですし、もうそんな気力も体力もありません。)

おそらく行政書士資格の勘違いで、送付状に「税理士・行政書士」と記載しているので、新たに取得したと間違われたのだと思います。

お客様が毎回そんなに送付状をまじまじ見ることもないでしょうし、私も自分からわざわざ、「新たに資格を取得しました」と他人に言いませんので。

医療機関を中心に顧問を広げたかったので、開業して間もないうちに行政書士資格は取得しました。

税理士資格を保有している方は、所定の手続きを踏めば行政書士資格は自動的に取得することができます。

医療機関を顧問に持つ税理士が、行政書士資格をどのように捉えるか考察しました。

税理士が医療機関を顧問に持つなら行政書士資格は持つ方がいい

 医療法人は、毎会計年度終了から2か月以内に税務署へ申告書を提出する必要があります。

医療法人の場合、さらに毎会計年度終了後3か月以内に事業報告書等を都道府県に届け出なければなりません。

この事業報告書等の作成は、行政書士業務の一つと考えられます。

行政書士法第19条

行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。

(第一条の二)

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(略)を作成することを業とする。

(第一条の三)

政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。

 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(略)について代理すること。

(以下、略)

上記の通り、第一条の二に規定する業務が行政書士の独占業務とされています。

これに違反する人は第21条の規定により罰則規定が適用されます。

ただ、第一条の二は独占業務ですが、第一条の三は独占業務とはされていません。

第一条の二の条文を読むと、「報酬を得て、書類を作成することを業とする」とあるので、

「無償であれば問題ない」、「作成することは問題あるが、提出することは問題ない」とも解釈されます。

曖昧な感じがしますが、都道府県のホームページによっては、事業報告書等の作成は行政書士の業務である旨のニュアンスの文言が記載されています。

やはり行政書士資格を保有しないで、上記業務はやるべきではないと思われます。

医療機関は許認可の雨嵐

仮に東京都への医療法人化手続きを行う場合、医療法人設立認可申請書を提出し認可を頂く必要があります。

その場合、東京都福祉保健局へ膨大な書類を準備しなければなりません。

しかもそれをすべて印刷やコピーして、印鑑をベタベタ押し、順番通りに並べて丁寧に提出する必要があります。

手続きする場所は東京都福祉保健局だけではありません。

医療法人化は、開設者が変わることになるので、個人の診療所の廃止し、新たに診療所開設の届出をしなければなりません。

手続先や主な提出書類は下記となります。

保健所:

・診療所開設届

・診療所開設許可申請書

・診療所廃止届

厚生局:

・保険医療機関指定申請書

・保険医療機関廃止届

・施設基準に係る書類一式

診療所の診療方針等によっては、当然施設基準の届出数は多くなります。

仮に在宅医療を行うのであれば、麻薬管理者や施用者の届出、難病医療費助成指定医の内容変更や改めての医療機関指定申請等、そのほか生活保護法に係る届出なども準備する必要があります。

(しかも提出先や提出期限も、その書類によってバラバラ)

書類はただ作って出せばいいわけではありません。

以前、同じ診療科の医療法人化(東京と神奈川)を同時期に行ったことがありますが、保健所の手続の順序や進め方は全然異なっていましたし、厚生局や都道府県の審査基準も所々で違っていました。

当然のことながら提出期限は遵守しなければなりませんし、遡及を行う形となるので慎重にかつ周到に事前準備をする必要があります。

医療機関に精通する方が、以前SNSに「許認可手続きをスムーズに行うには、事前の段取りが全て」とコメントしていましたが、その通りと思います。

官公署に提出する書類作成することを業とするのが行政書士の役割であれば、上記業務は行政書士資格を保有した方がやるべきでしょう。

他の行政書士からの情報を収集できる

行政書士の方と繋がっていると、税理士業界では入手できない情報が手に入ります。

士業は常に最新の情報に目を向ける必要がありますが、医療機関を顧問に持つ税理士にとっては、些細な情報でも収集したいものです。

医療機関を専門に業務を行っている行政書士は、かなり少数派です。

以前、行政書士会主催の医療法人化セミナーに参加した際、講師の方が医療法人化の手続きを行ったことのある方に挙手を求めていました。

参加者は50人以上いましたが、手を挙げたのが数名でした。

(全員が挙手しているわけではないと思いますが。)

参加者は全員行政書士のはずなので、行政書士の間ですら医療法人に纏わる知識を持つ方は少ないのです。

医療機関に係る許認可は、恐ろしい側面もあります。

許認可手続の回答はYesかNoなので、期限までに正確な書類が提出できていなければ、許認可を受けることはできません。

それが結果的に何を意味するかは、言うまでもありません。

税理士業務を主に行っている人間がどこまで踏み込むか、そういった判断能力も必要となります。

医療機関を顧問に持つ税理士が、それを専門に行う行政書士と繋がるのは必須なのです。

税理士にも行政書士にもそれぞれ得意分野、不得意分野というのはあります。

さすがに、医療機関専門で税法にも医療法にも精通し、そのほか相続税申告や国際税務まで、すべて正確にできますという税理士に出会ったことはありません。

(多分会ったしても、ホラ吹きにしか感じませんが。)

この業界に携われば、真に医療機関に精通する行政書士の方を知ることはそれほど難しくはありませんので、そういった先生方の情報交換会やセミナー等で、情報は積極的に収集したいものです。

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