領収書が必要経費として認められるには要件がありますが、税法によってその要件は異なります。
令和6年1月1日から始まる改正電子帳簿保存法により、電子取引に関しては保存方法が制限されることになりますが、紙で請求書や領収書を受け取っている場合は、従前通り紙のまま保存することが認められます。
領収書等を紙で受け取る場合でも、要件を満たさなければ、所得税の経費計上や法人税の損金算入、消費税の仕入税額控除の適用が受けられない場合があります。
領収書さえあれば良いというわけではない点に注意が必要です。
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各税法の経費計上及び仕入税額控除要件
事業者が青色申告者であることを想定する場合、法人税法、所得税法、消費税法それぞれで下記のように規定があります。
所得税法上の必要経費の要件及び帳簿の保存に関する規定
第六十条第一項(決算)に規定する青色申告者は、次に掲げる帳簿及び書類を整理し、起算日から七年間(略)、これをその者の住所地若しくは居所地又はその営む事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない。
一 第五十八条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告者の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに計算、整理又は決算に関して作成されたその他の書類
三 取引に関して相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し
法人税法上の必要経費の要件及び帳簿の保存に関する規定
内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 (略)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(略)に保存しなければならない。
一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類
三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し
消費税法上の仕入税額控除の要件及び帳簿の保存に関する規定
事業者(略)が、国内において行う課税仕入れ(略)については、(略)課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(略)の合計額を控除する。
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(略)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ(略)等の税額については、適用しない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
(略)
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(略)を行う他の事業者(略)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項(略)が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(略)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
(略)
上記の通り、所得税法及び法人税法には、領収書の保管が経費計上又は損金算入の要件とはなっていません。
仮に領収書が無い場合でも、支払の事実が認められ、各要件を満たしているのであれば、経費計上又は損金算入が認められると解釈されます。
ただ、支払の事実を証明するには、結局のところ領収書などで把握するしかないので、帳票類は日頃から整理して保管することが大切です。
逆に消費税は、「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(略)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ(略)等の税額については、適用しない。」と定められています。
ゆえに消費税の計算が原則課税で仕入税額控除の適用を受ける場合は、帳簿や請求書、領収書等の保存が求められています。
(原則課税でなく、後述する簡易課税制度を選択する場合は例外)
仮に税務調査があり、その場で帳簿や請求書等を提示できない場合は、支払の事実があったとしても、帳簿等が保存されていないことになり、消費税法上の仕入税額控除の適用要件を満たさないことになります。
ケースによりお目こぼしがあるかもしれませんが、その場で全て否認されても文句は言えません。
それゆえ消費税の原則課税の事業者は、領収書の保管を厳密に行わなければなりません。
消費税の仕入税額控除を受けるための領収書の受け取り方
仮に飲食店で取引先を接待して、現金で支払い経費計上する場合、消費税で仕入税額控除の適用を受けるには、領収書に下記が記載されている必要があります。
領収書を受け取る際は、常に気に留めるようにしましょう。
・飲食店の名称
・接待した日付
・摘要
・金額(8%か10%か等の消費税額も)
・宛名(支払者の名称、法人名など)
・インボイス登録番号
3万円基準の見直し
仕入税額控除の適用を受ける場合、インボイス制度導入前は、1回の取引が3万円未満のときは、帳簿にその旨を記載するだけで、請求書及び領収書等の保存は必要ありませんでした。
ただし、インボイス制度導入後、インボイスの適用業者は、基本的に主に下記以外の取引は全て請求書及び領収書等の保存が必要となります。(一部、経過措置による例外あり)
【帳簿に記載するだけで仕入税額控除が認められる主な取引】
・3万円未満の公共交通機関による旅客運送
・3万円未満の自動販売機等からの商品購入等
・従業員へ通常必要と認められる出張旅費等
HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=155 (Q101)
ただし上記の場合でも、請求書や領収書等の保存の必要はありませんが、帳簿には請求書及び領収書等に記載すべき事項を記さなければなりません。
ゆえに、領収書が無い取引であっても、結局のところ、帳簿には相手方の名称や摘要、金額、日付は正確に記載する必要があります。
さらに国税庁のQ&Aによれば、通常必要事項に加え、下記の事項の記載が求められているので、事務作業が増えることが想定されます。
・公共交通機関による旅客の運送…「3万円未満の鉄道料金」などと記載
・自動販売機からの商品の購入…「○○市 自販機」などと記載
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=155 (Q107)
簡易課税の場合は例外
上記は全て、「仕入税額控除」の適用を受ける場合の話です。
国税庁のHPで、帳簿の記載事項と保存に関するQ&Aに下記の記載があります。
課税事業者(簡易課税を選択した事業者を除きます。)が仕入税額控除および売上対価の返還等の適用を受けようとする場合には、一定の帳簿(仕入税額控除の場合は帳簿および請求書等)の保存が要件とされています。
HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6621.htm
簡易課税制度の適用を受ける場合、売上に係る消費税額を基礎として仕入に係る消費税額が計算されます。
つまり仕入税額控除の適用は受けない形となるので、帳簿の保存に関する規定に影響されません。
領収書への記載が厳密に必要なのは原則課税の場合であり、簡易課税制度を選択している場合は特に求められていません。
手元にクレジットカード明細しか無い場合の注意点
仮に飲食店で飲食をして経費計上する場合、その飲食代をクレジットカードで支払うケースがあります。
その場合、事業者が消費税で原則課税か簡易課税のいずれで計算しているかにより、対処が異なります。
原則課税の場合
国税庁のHPの質疑応答事例に下記の記載があります。
クレジットカード会社がそのカードの利用者に交付する請求明細書等は、そのカード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が作成・交付した書類ではありませんから、消費税法第30条第9項に規定する請求書等には該当しません。
しかし、クレジットカードサービスを利用した時には、利用者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が、「ご利用明細」等を発行しているのが通常です。
この「ご利用明細」等には、
①その書類の作成者の氏名又は名称、
②課税資産の譲渡等を行った年月日、
③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)、
④税率の異なるごとに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額、
⑤その書類の交付を受ける者の氏名又は名称
が記載されていることが一般的であり、そのような書類であれば消費税法第30条第9項に規定する請求書等に該当することになります。
すなわち、クレジットカード明細はその飲食店が発行したものではないため、仕入税額控除の適用要件を満たさないことになります。
ただ、飲食した際に利用明細が発行されますが、その利用明細に飲食店の名称や日付、税率など、要件を満たすように事項が記載されているのであれば、その利用明細は正式な領収書に該当し、仕入れ税額控除の適用が可能となります。
まず、カード明細を保管するだけではNGということを頭に入れておく必要があります。
そして注意すべきは、ご利用明細に上記①~⑤の記載が明確にされていないケースがあるということです。
さらに、今後のカード会社毎の対応にもよりますが、インボイス登録番号が付されていない場合には、当然仕入税額控除の適用は受けられません。(ただし経過措置による例外等あり)
ゆえにクレジットカードで取引を行った場合には、利用明細だけでなく、きちんとした領収書を受け取って保存しておくことが、結局のところ確実となります。
簡易課税の場合
簡易課税の場合は仕入税額控除の適用を受けません。
ゆえに消費税法上で、クレジットカード明細が領収書代わりになるか否かなどという問題は発生しません。
別論点として、法人税法または所得税法で、領収書でなく、カード明細保管による経費計上が認められるかが問題となります。
前述の通り、所得税法及び法人税法には、領収書の保管が経費計上又は損金算入の要件とはなっていないため、クレジットカード明細で支払の事実が把握することができるのであれば、法律上は経費計上又は損金算入が認められると解釈されます。
まとめ
事業者が消費税法上、原則課税を適用しているか、簡易課税の選択をしているかによって、帳簿の保存要件が異なります。
通常の診療所の場合、簡易課税制度を適用しているケースが多いと思いますので、帳簿の保存要件については、原則課税の事業者ほど厳しくはありません。
それでも、領収書などは日頃から意識して整理することを勧めます。
何より、税務調査時に領収書等の帳票が整然と揃っている方が、調査官の心証も良くなります。
領収書等を受け取ったら、少なくとも捨てたり失くしたりすることの無いよう、整理して保管することを心掛けて下さい。
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。